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デジタルドルの概要と動き
アメリカに限らず、世界各国の金融の中核をなす機関である中央銀行(日本で言えば日銀)の9割以上がデジタル通貨を検討していると言います。
アメリカドルのデジタル通貨においては世界の基軸通貨ということもあり、デジタル通貨の中でも一番の注目を受けているのです。
デジタルドルが現実視されるに至った経緯
デジタルドルが現実視されるようになった背景は、以下のような「存在感が増したデジタマネー」と「FB社によるリブラ」が挙げられます。
デジタルマネーの存在感が増す
デジタルドルが構想されるようになった背景は以下のとおりです。
- 仮想通貨の額と利用者が増加し、デジタルな通貨の需要も増す
- アメリカドルという法定通貨に連動したステーブルコインの利用が急増(仮想通貨銘柄中でティーザーは時価総額3位)
- 仮想通貨のシステムを担うブロックチェーン技術の存在感が増す
- 民間企業において電子マネーが多くリリースされる
デジタル通貨が求められるようになった時代の流れがあり、「法定通貨としてのデジタルドル」が構想されるようになったようです。
FACEBOOK社によるリブラの発行
後述するような法定通貨としてのデジタル通貨とリブラの違いは以下の3点でした。
- 国境を超えて使える通貨
- 価値安定を保持するためにドルやユーロなどの通貨に連動している
- FACEBOOK社が運営
アメリカ政府が過剰に警戒した理由は以下のとおり。
- FACEBOOK関連のユーザーは世界の人口の3割が利用していると言われており、この中でリブラが普及すればアメリカ政府がコントロールできる範囲を超える可能性がある
- 既存の金融システムを揺るがして不安定にさせる
- マネーロンダリングなどの犯罪として利用される可能性が高まる
FB社はリブラがグローバルな通貨になりえ、低コストで送金できるため、世界に大きな経済的チャンスを生むといった社会貢献色が強いPRをしました。
しかし2022年1月にアメリカ政府の同意を得られなかったとして「リブラを断念する」と表明しています。
※リブラに変わる代替サービスとして現在ディエムに名称変更されています
デジタルドルのメリット
デジタルドルが実現されるにあたり、3つのメリットが挙げられるでしょう。
国際決済の効率性
アメリカドルは外国為替市場ペア別取引高シェアにおける、ペア取引高シェア で9割近いシェア率を維持しています。国際決済の側面から見ると、デジタルドルが実現することで決済手続きの効率性が増すのは必須です。
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デジタルドルのデメリット
デジタルドルが実現すると、以下のようなデメリットも起こる可能性も見逃せません。
信用創造機能の損失
民間銀行がお金を貸し出すことで預金額の数倍の価値が創造されており、融資を受けた側の通帳には融資の額だけ価値が創造されます。国の経済で言えば、企業が銀行からお金を借りることで資金調達でき、国全体の経済が活発化されます。
民間銀行に預けていたお金が大量にデジタル通貨へ移動すると民間銀行での資金繰り悪化が起こりやすく、その先に融資や貸し付けも減る可能性があります。すると企業の資金調達額が減ったりアメリカ全体の経済拡張が抑制されるわけです。
取り付け騒ぎを起こしかねない
アメリカのシリコンバレーバンクは、簡単に言って「『定期預金の額と期間』と『中長期の貸し付けに出す金額と期間』とに乖離がありました。シリコンバレー銀行の預金者はこの銀行の信用不安から引き出しが殺到し(取り付け騒ぎ)、結果的に同銀行は破綻しています。
分別管理は一般的ではありますが、シリコンバレー銀行のように”そうしていないケース”も実はあり(ダメなパターン)、いざとなったときにこうした騒ぎが露呈してしまったのかもしれません。
ココに注意
FRBに利用履歴が丸見えになりプライバシーが露呈
国際送金におけるアメリカドルの地位がゆらぐ
ウクライナ侵攻あと、アメリカはロシアへの制裁として国際送金網であるSWIFTからロシアを排除、アメリカやアメリカドル自体が国際送金において強力な力を持っていることを今一度知らしめた出来事でした。
デジタルドルが実現すれば、同じように国際送金で強大な力を発揮できるわけではなくなります。
アメリカ大統領によるデジタルドルに対する動き
バイデン現大統領
しかしながらFRBは「あくまでデジタルドルの実現は国民と議会の手中にある」といったスタンスのようです。
そのリアクションとしてバイデン大統領がデジタルドルについての大統領令を発表したのがのちの2022年3月9日。この内容はデジタルドルの発行について問題点を検証する指示でした。
ココに注目
今のところFRBの一番大きな懸念点は「アメリカ政府の制御が効かない暴走システムにならないこと」です。この前提でデジタルドルの検証を重ねているにとどまるようです。
上のバイデン氏の大統領令にビビった人は多いのですが、問題点の整理をせよといった内容にとどまり、実現に至っているわけではありません。
ドナルドトランプ氏
一方で元アメリカ大統領のドナルドトランプ氏は、デジタルドルに対して猛烈な不快感と反対の表明を出しています。
デジタルドルなんてぜったいに阻止する! あんなものは自由へのリスキーな脅威でしかない。 民間銀行の口座からお金がごそっとなくなってしまうような驚くことになりかねない。デジタル通貨は価格変動が高い(だから法定通貨ドルの代替などになりえない)。
2024年の秋にアメリカ大統領選が行われる予定で、バイデン氏もトランプ氏も立候補者として知られています。
「バイデン氏は現実的にデジタルドルの現実化を検証しているし、もしトラだったらバイデン氏よりはデジタルドル実現化が薄れるっぽい気がする。」こうしたイメージになっているように思いますね。
デジタルドルが成立する条件
デジタル通貨については、以下の5つの条件が必要だと考えられています。
デジタル通貨の5つの条件
- 国の金融の中核をなす機関である中央銀行が発行(法定通貨建てのデジタル通貨である)
- P2P(ピアツーピア)型(端末同士で行うダイレクトな通信方式・サーバーを介さない)
- 電子的な形態
- 一般公開されている
- 中央銀行の債務として発行される
金融機関が用いる大口の取引で使われるのがホールセール、一般人が決済に用いるときに使われるのが一般利用型で、アメリカで検討されているのは一般利用型の方です。
もっと詳しく
デジタル通貨としてブロックチェーン技術が必ずと言って良いほど登場します。②と③を満たす決済システムや技術が構築できる最適なものがブロックチェーンと考えられることが多いようです。
おそらくセキュリティ面でもブロックチェーンの上を行くシステムや技術は今のところないでしょう。
身近なP2P型の例はメッセージアプリであるLINEなどが挙げられます。サーバーを介さずにメッセージのやり取りが行えることでユーザー同士のやり取りが膨大になったとしても、サーバーに負担がかからず負荷が膨らんだことによるシステム障害も起こりにくいです。
デジタルドルの可能性と展望
上述しましたようにデジタルドルのデメリットやリスクとして挙げた以下の項目については、今後どのように課題改善されていくのかわかりません。
- 信用創造機能の損失
- 取り付け騒ぎを起こしかねない
- 利用記録おけるプライバシーの露呈
- 国際送金においてアメリカドルの地位が揺らぐ
もっと詳しく
特に最後の点についてアメリカは力づくで阻止したいと思うはずです。なぜならアメリカはアメリカドルの地位と、それと両輪をなす世界をリードする力が誇りであるわけですから。
ココがポイント
何はともあれデジタルドルの検証段階と「利用が実現される段階」を分けて考える必要があるでしょう。
2024年現在、デジタルドルの実現はまだ先のことであり飽くまで検証段階であること、実現されるとしたら国民と議会の総意にあるといった発言をFRBもしているとおりです。
引き続きニュースなどを耳にしながら、デジタルドルの展望を注視していきましょう。